0秒03に泣いた最後の五輪挑戦 競泳・井本直歩子、それでも言える「幸せな競技人生」

2021/12 /18:井本直歩子さんの紹介記事が掲載されています。

「私が目指すのは、男性らしさ、女性らしさにこだわらないフラットな社会、そしてスポーツ界です。ただ日本では、ジェンダーについての伝統的価値観が特に根強く、概念そのものが伝わりにくいと感じています。課題は多岐にわたりますが、あらゆる施策にジェンダー平等を重視する国際機関にいた経験が、アドバイザーを務めるうえで活きています」

 今年2月、東京五輪・パラリンピック組織委員会はジェンダー平等推進チームを設置。そのアドバイザーにユニセフの教育専門官、井本直歩子さんが就任した。

 念願の五輪出場を果たしたのは、96年アトランタ大会。井本さんは個人、リレーの2種目で予選落ちしたものの、女子4×200mリレーでは4位に入賞。しかし、この結果は満足のいくものではなかった。

「人生をかけた集大成の大会だったのに、力を発揮できず、メダルも獲れなかった。これで引退だと思っていたので、すごく悔しくて。帰国する飛行機のなかでも、めっちゃくちゃに泣いていました」

 そんな彼女に声をかけたのは、当時、自転車競技の選手として出場していた橋本聖子さんだった。『後悔が残っているなら、競技をやめちゃダメ』。その言葉を聞き、もう一度、チャレンジしようと決めた。

「中学時代から、練習では『もっといける』という手応えはあるのに、試合ではいつも力を発揮できなかった。実力以上の目標を掲げては本番で届かず、ずっと泣いてきました。だけど最後の1年は気持ちを切り替え、もう高い目標を掲げるのをやめたんです。とにかく全力を出し切ろう。やるだけやって、それで終わりにしよう、と」

 24歳の井本さんは代表選考会の日本選手権で出場全種目、自己ベストを更新するも、派遣標準タイムには0.03秒及ばず。2度目の五輪出場は叶わなかった。「すべて出しきったし、後悔はない」。3度目の五輪挑戦を終え、約20年の競技生活に終止符を打つ。

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